【読んだ本】エンド・ゲーム 常野物語/恩田陸

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注目の「常野一族」シリーズの最新作『エンド・ゲーム』、早速読了。
まず、目次のつけ方からしてイカシてる。
第一章から第六章まで、見出しが日付と曜日のみに統一されていると時点で、
こりゃぁ、ストーリーを時系列で追っていくのだな、という期待感が膨らんでしまいます。
さすがに一冊丸ごと一気読みというわけにはいかないにしろ、
次へ次へと読み進みたくなってしまう、スリリングで謎めいたストーリー展開です。

本作は、サブタイトルにあるように、
『光の帝国 常野物語』、『蒲公英草紙 常野物語』に続くシリーズ第3作。
第一作『光の帝国』は、その一編一編を、
スリリングに、またミステリアスに読むことができる連作短編で、
常野(とこの)という、様々な特殊な能力を持つ一族について物語が綴られています。

エンド・ゲーム』は、
人々の中に紛れ込んでいる、エイリアンのような異質なものを察知することができ、
それを“裏返す”という方法で撃退することの出来る能力、
そして、“裏返し”“裏返される”闘いを続けることを宿命付けられた人たちのストーリー。
十数年前に夫を“裏返された”拝島暎子は、娘の時子とともに、
いつ襲いかかるやもしれない“あれ”に対して怯えながら緊張し続ける日々を送っている。
まさに『光の帝国』の中にある「オセロ・ゲーム」の続編で、
能力が覚醒した娘・時子と暎子との、その後のストーリーです。

そんな恐怖に満ちた生活の中、
暎子が出張先で倒れ原因不明だが意識が戻らない、という連絡を時子が受け、
母の出張先に駆けつけた時子は、ついに母が“裏返された”のかという疑いを持つ。
どうやら、
父が失踪する前「自分が帰らなかったら、この番号に電話するように」と遺したという
メモの番号に、暎子が連絡したのが、事の発端になっているようです。

母はほんとうに“裏返されて”しまったのか。
これからは自分一人で闘いを続けていかなければならないのか。
そして、時子自身もメモの番号に電話することで出会った、
常野の一族であり“洗濯屋”を名乗る火浦という男の正体と真意は…。

時子には、“裏返す”ことや“裏返される”ことは解っても、
“洗濯屋”がするという“洗う”という行為や“包む”ということの意味がよく理解できない。
しかし時子の父は“包まれて”しまったのだという。
恐れと疑問を抱えながらも火浦を信じるしかない時子は、母を助けようと動き出します。
その一方で、表面上は意識不明となった暎子には、
夫が帰らなくなってからの生活への悲しみや迷いや、
夫に対する怒りなどが入り交じった懊悩が存在する。
時子の不安と暎子の懊悩が少しずつほどけながら、
暎子の夫が失踪した本当の理由や、
拝島一家に宿命づけられた「オセロ・ゲーム」の真相が解き明かされていくのです。

恩田陸が描き出す独特の物語の世界、十分な読み応えを感じる作品です。
しかし、常野物語の続編である必要があったのかは微妙。

常野の一族は、群れず、権力を持たず、目立たず静かに暮らしている人たち。
たしかに拝島の一家もそうなのですが、正体の知れない敵と戦い続けるという基本スタンスが、
常野物語にしてはエキサイティング過ぎると感じてしまいます。
恩田さん自身も『光の帝国』のあとがきで、
「オセロ・ゲーム」はもともと独立した長編だった、と書いているように、
まったく別の位置付けでも良かったんじゃないかなぁ、と。

しかしそう思う一方で、
『蒲公英草紙』で、“しまう”力を持った春田の家の少年・光比古が、
自分たちの持つ力は、苦しくつらいところもあるけれど、
その定めを恨んだり悲しんだりせずに、前向きに捉えていたことを思い出します。
拝島家の人たちにも、明快に書かれているわけではないけれど、
読後の印象として似たものを感じます。

続編である必要がないと言いつつ、共通点を感じると言って、私自身がちぐはぐですが、
「Aであること」と「Aでないこと」とは、そんなにキッパリと白黒つけられるものでもありません。
普段の生活の中では、さまざまな事象について見るとき、光と陰を同時に見ているのに、
無意識のうちに陰の部分に覆いをしてしまう。
そういえば『エンド・ゲーム』の中でも何度か書かれていることです。

人は見たいものだけを見て、見たくないものは決して見ない。

もしかすると、二つの作品に感じた共通点というのは、
恩田陸の作品の共通点なのかも知れません。
見たくないものを見る、ということを敢えて強いながら、
見たくないと感じていたものも、見てみるとまんざら悪いものじゃない、
むしろ前向きに捉えることができる、ということも同時に感じさせてくれる。
『常野』のような非現実的な世界を見せながら、実は現実世界の本質を物語っている。

解説風に書いちゃうと、恩田陸の小説ってそんな面を持っているのではないでしょうか。
それがただのファンタジーにとどまらない恩田ワールドの魅力なのでしょう。
見たくないけど見なくちゃいけない、という本質を突きつけられて、
首のうしろが寒くなるような感じがありながら、
現実にはありようもない不思議な世界につれていってくれる。
だから、物語を読み終えてしまうのが、なんとなく「もったいない」と感じてしまうのです。

エンド・ゲーム 常野物語』 恩田陸 著
集英社 \1,575-

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この記事へのコメント

chiekoa
2006年01月10日 15:05
気合で一冊まるごと一気読み(しかも立ち読み)してしまいました…まさにおそるべき恩田ワールド!(何か違う?)
こばけん
2006年01月10日 21:31
>chiekoaさん

買って下さいね(笑)
四季
2006年01月27日 06:24
常野物語の続編ということで、ほのぼのしたイメージで読み始める人も結構いると思うので、そういう意味では危険な異色作ですよね。私自身は、こういうダークサイドもあるというのが、また常野の世界の奥行きを広げているように感じられて好きなのですが。
でも、んんー、頭では大体納得してるんですけど、やっぱりどこかはぐらかされたようなもやもや感が残ります…(笑)
2006年02月02日 20:40
TBとコメントありがとうございました。
この物語は、常野の数ある物語のうちの一つなのでしょうね。
そのうち、次々と書き溜められる常野の物語が一つのおおきな世界に
なっていくのかもしれません。このシリーズ、やはり恩田作品の中で
大きな意味を占めるものなのでしょう。
こばけん
2006年02月02日 21:23
>四季さん
おそまきながら、TBとコメントありがとうございました。
私もこの作品が常野の続編である必要があるのか、若干の疑問を挟みつつも、四季さんのおっしゃるように、こういうダークサイドも常野の世界の一部なのだと思い直しました。

>ERIさん
TBとコメントありがとうございました。
私も同感です。
この常野シリーズと『三月は深き紅の淵を』からはじまったシリーズは、恩田作品の中でも別格なのではないでしょうか。
かなめ
2006年02月28日 11:28
はじめまして♪
四季さんのところから飛んできました。
四季さんのところのコメントで
『“恩田陸慣れ”しているのかもしれませんが(笑)』
という一行が気になってしまいました(笑)
多分私も“恩田陸慣れ”しちゃってると思います。
なのでこの作品の終わり方、私も結構納得できました。
TBさせていただきました^^
七生子
2006年03月21日 10:02
七生子です、こんにちは。
ご挨拶が遅れましたが、コメント&TBありがとうございました。
「期待しないで読む」「常野シリーズとは別モノとして読む」のが、
この作品を楽しく読むために必要なのかもしれません(笑)。
再読すれば、また感想は変わりそうですけど(玉虫色の発言/笑)、
現時点での私にはこの作品、イマイチでした。
謎が謎を呼んでましたけど、きっちり回収する意志はおありなんでしょうかね?
「いつかきっとその日が…」と期待し、待ちわびる日々が続きそうです(笑)。
こばけん
2006年03月21日 12:46
>七生子さん
TBとコメントありがとうございます。
「光の帝国」「蒲公英草紙」ときてこの作品だと、
違和感は仕方ありませんよね。
拝島一家の今後については、私もぜひ語ってほしいと思いますが、
謎が謎を呼んだまま拾ってもらえない可能性も感じています(笑)
sweet(uydrjrntuy)
2006年04月05日 00:39
こんばんは^^はじめまして。一昨日TB試みた時 「エラー発生TB不可」とでたので あきらめていました。さきに私のブログにコメントいただきありがとうございました。また遊びにこさせてください。どうぞよろしく^^
びー玉
2006年05月26日 00:05
読了してすぐにレビュー書くの苦手なんですが、一気にいっちゃいまいた。
でも実は、「光の帝国」を読んでいないんです・・・(苦笑)。
またトラックバックさせていただきますね。
こばけん
2006年05月26日 02:05
>びー玉さん
TB&コメントありがとうございます。

そりゃ、マズイです!
「光の帝国」を読まずして「エンド・ゲーム」読了なんて!(^o^;
ましてや「蒲公英草紙」を先に読んじゃったりしたら、さらにマズイです。
常野シリーズはまだまだ続くと目されていますし期待も高いですから、大至急「光の帝国」を読んで下さい。
ほんっと、マジで。
びー玉
2006年05月26日 22:13
て、手遅れです・・・
実は最初に「蒲公英草紙」読んでるんです(苦笑)
遅ればせながら、またトラバさせてもらいます。
「光の帝国」、図書館で予約しましたので・・・(汗)
こばけん
2006年05月27日 18:31
>びー玉さん
どひゃぁ!(笑) そうでしたか(^o^;
でも「光の帝国」を予約されたとのことで一安心ですね(なにが?)
常野シリーズは今後もどんどん続編を書いていってほしいし、十分それが期待できるシリーズですよね。楽しみです☆
びー玉
2006年06月22日 22:30
すみません、最初のTBうまくできてないようで
クリックしても記事に飛べません(汗
再びTBしました。
お手数ですが、お時間のあるときにでも、
古いほうを削除していただけれるとありがたいです~。
2006年06月23日 01:08
>びー玉さん
削除、やっときますね。
たびたびのアクセスありがとうございます(^.^)
tomekiti
2006年09月24日 12:13
こんにちは。TBさせていただきました。
>正体の知れない敵と戦い続けるという基本スタンスが、
常野物語にしてはエキサイティング過ぎると感じてしまいます。
そうですねー。でもエキサイティングで面白かったですけど(笑)
ただ、私的には神秘的な“常野”の人たちが今回かなり人間くさくて度肝を抜かれました。
やっぱり“現代”を生きる上で、色々と大変なんでしょうかねー。
恩田さんが続編を書いてくれることを期待します♪
こばけん
2006年09月26日 02:23
>tomekitiさん
TBとコメントありがとうございます^^
たしかに“現代”の設定だから、生々しい感じが出ちゃうんでしょうね。
きっとそろそろ書いてくれますよ。次は神秘的な感じの物語じゃないかなぁ、なんて勝手な期待w

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